機械翻訳にも、向き不向きはあるの?
皆さんこんにちは、東京の翻訳会社、日本翻訳センターのIです。
「翻訳の夏」真っ盛り(?)、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
是非、日本翻訳センターへお問い合わせをいただければ幸いです!
さて、今回は「機械翻訳にも、向き不向きはあるの?」という疑問にお答えすべく、
機械翻訳の向いている分野・向いていない分野や
人手による翻訳との違いなどについて、お話をさせていただければと思います。
① 機械翻訳の広がり
② 機械翻訳の向いている分野
③ 機械翻訳の向いていない分野
④ 終わりに
① 機械翻訳の広がり
機械翻訳。
自動で瞬時に翻訳してくれるすぐれもの。
よく知られているところでは、Google翻訳や、DeepLなどの無料の翻訳サイトがあります。
更にはポケトークのような音声型の翻訳機に至るまで、
今では、この「機械翻訳」は私たちの生活により浸透してきています。
みなさんも、一度や二度はこれらのツールを使ってみたことがあるのではないでしょうか。
旅行先で分からない言葉をその場で翻訳したり、
仕事中に困った時、短い文や簡単な言葉の意味を把握したりするだけなら、とっても便利なものです。
逆に、少し困った点もあります。
間違った翻訳文を読んだことで誤解が生まれたり、
機械翻訳で翻訳した訳文をそのままサイトに掲載して、閲覧した方々の信頼を失ったりといったような問題も、時折耳にします。
機械翻訳が発達し、翻訳という言葉自体がより身近なものになりました。
言語や文化、外国語のメディアに興味を持ったり、翻訳することが好きになったりする人が増えることについて、
翻訳・言語に携わっている私は嬉しく思っています。
ちなみに、私が機械翻訳の存在を意識し始めたのは今から10年程前。
便利なものが出てきたなあと思う程度でした。
当時は性能が高くなく、評判も良いというよりむしろ逆。
何度か、今回は実務に耐え得るものが出来た、と言われては、
その度にその話もどこかへ消えて、一向に広まりませんでした。
(参考:【必見】翻訳サイトを利用する際の上手な活用方法とは! )
ようやく身近になってきた、そんな機械翻訳ですが、簡単に歴史をたどってみましょう。
どうやら実験は1950年台から始まっていたそうです。
しかし、長く研究が思うように進まない時期が続き、
ようやく1990年代入りIBMが開発したモデルが機械翻訳の始まりと言われています。
初期の機械翻訳は単語の並べ替えによるものでしたが、
2000年代に句構造を利用した翻訳手法へと進化し、語族が異なる言語間でも翻訳の精度が向上。
2010年代に入って、ニューラルネットワークによるディープラーニングを使った技術が応用されて品質が向上。
今ではAI翻訳とも呼ばれるものも出てくるなど、技術革新によって翻訳精度が上がってきており、
翻訳制作工程の効率化、スピードアップなどの点で期待されています。
また、機械翻訳は、手法によりいくつかのタイプに分けられます。
「ルールベース機械翻訳」と「コーパスベース方式」です。
更にコーパスベース方式には「統計的機械翻訳」と「ニューラル機械翻訳」があり、
2010年以降に主流となっているのは、ニューラル機械翻訳です。
一般の方が使用する場合については先程触れましたが、現在では機械翻訳を活用する翻訳会社も出てきています。
もちろん採用しているのは、前掲した無料の翻訳サイトではなく、
より実務に対応しているタイプのものを選んでいる会社が多いでしょう。
さあ、前置きはこのくらいにして、実務使用での機械翻訳の向き不向を見て行きましょう。
② 機械翻訳の向いている分野
機械翻訳活用のメリットは、
人手翻訳(人が翻訳すること)する時のように時間をかけず、手軽にその場で翻訳が出来上がること。
特に機械と親和性が高いと言われているのは、特許関連、医療関係、法律関係、論文、マニュアルなど。
例えば、人が翻訳した場合起こり得る、用語の不統一や、表現にばらつきがある、といった問題を防ぎ、
指定した通りの言葉に、まさに機械的に翻訳文に反映してくれます。
これは機械の強みですね。
比較的使われる言葉の意味や用語が決まっていたり、定型文などが頻出したり、
記載のルールが決まっているタイプの文書は、
機械翻訳と相性が良く、ある程度高いレベルで翻訳文を作ることができます。
なるほど確かに、このような分野だと、機械翻訳の特徴をより活かしやすいのもうなずけます。
ここまで実務で活用出来るようになるなんて、正直なところ驚いています。
また、最近では書く側が「あらかじめ機械翻訳に配慮する」ことで、精度を上げる工夫も研究されており、
更なる性能の向上が期待できそうですね。
一方で、用法や意味などをその場その場で解釈しなければならないタイプの分野や、
イレギュラーな内容、形式の場合には、やはり思うような翻訳文にはなりません。
とはいえ、使い方次第で、人手翻訳する時よりも効率的に翻訳文を作ることができる場合もあり、
活躍の幅は確実に広がってきています。
ちなみに、翻訳会社が機械翻訳を活用する場合には、
機械翻訳で出てきたままの訳文をお客様へ納品することはありません。
なぜなら、現段階の技術では、そのままお客様に納品できる品質には至っていないから。
必ず人の手によるチェック工程を経ることになります。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
(参考:【よくあるご質問シリーズ】「ポストエディット、リライトってなに?」)
③ 機械翻訳の向いていない分野
逆に、機械翻訳が苦手としているものにはどんなものがあるでしょう?
よく言われるものとしては、小説、エッセイ、脚本、映像翻訳、字幕などといった分野です。
これら文芸関連の案件を翻訳する場合には、最初から人手翻訳に頼ることになります。
なぜでしょうか?
一つは、言葉の解釈や、文脈の理解を要求される要素が大きいためです。
人の書く文章は、文脈によって言葉の意味が違ってくることがあります。
作者がどんな文章を書くかによりますが、
時に遠回しな表現となったり、またある時は情景の描写から登場人物の心情を理解しなければならない場面が登場したりします。
あるいは、行間を読むことで著者の言いたいことを組み取ったり、
言葉の微妙なニュアンスを拾って翻訳したりといったような、高度な読解力、文章力が必要になります。
機械翻訳では、言葉の意味の解釈や、文脈の理解は行われません。
大雑把な言い方をすれば、目の前の文字、文章をそのまま処理しているだけとも言えます。
仮に内容を理解できたとしても、それを適切な言葉で、言語を置き換えていく必要が出てきます。
技術は進歩してきましたが、まだ人と同じ域にまでは至っていないのが現状です。
もう一つは、エンターテイメントとしての要素を多く含むものだということです。
例えば、「感動する」とはどういうプロセスを経るでしょうか?
簡単に言えば、文を読んだり、音声を聞いたりしたものが、人の感情を刺激することで、「感動する」わけです。
感動を誘う文章にするには、人間の感情に対する理解や、言葉選びのセンスや、表現力が必要です。
製作者側は、読者に楽しんでもらい、視聴者に感動してもらいたい、という目的をもって作品を作っています。
このシーンで主人公が感じる悲しみの心情を読者に感じてもらうには、どんなセリフがよいか。
どんな描写が雰囲気を盛り立てるか。
作り手による、途方もない言語操作が受け手を意識して行われます。
さて、これらを適切に翻訳するには、まず作り手の意図や、ストーリーの背景などを理解しておかなければなりません。
そして、意味合いを損なわないように、読み手の文化的背景を考慮した上で、別の言語に変換するわけです。
想像しただけでも、大変な作業です。
実はこれ、プロの翻訳者にとっても、相当高度な技術や経験が必要になる、とても難易度の高い仕事なのです。
以上の例からも、いつの日か機械翻訳が作者の世界観を感じ、作品を味わうことができるようになるまでは、
人手翻訳にお任せすることになりそうですね。
ところで、わたしたち日本翻訳センターは、人の手による翻訳(人手翻訳)を採用しております。
私たちがお客様から頂くお仕事の多くは産業翻訳分野です。
逆に、文芸分野など、華やかな案件は多くはありません。
産業翻訳分野とは、企業が社内外で使う資料や、官公庁が必要とする文書を主に扱う分野です。
お役所が作成する文書や、企業の報告書など少し固めの案件ばかりなのかと連想されがちですが、
意外とさまざまな案件があり、実のところ人手翻訳でないと対応しにくいものが、かなり多くを占めているのです。
翻訳において、注意する点はいくつもありますが、
日本翻訳センターでは、特に読みやすさ、理解のしやすさを重視しています。
伝え手が「伝える」のではなく、読み手に「伝わる」ことが大切だと考えているからです。
例をあげるとすると、広告文、キャッチコピー、企画書、プレゼン資料、スピーチ文などがその内の一つです。
読み手が翻訳を読んだ時に、どう感じて、どんな行動を起こしてほしいか。
顧客の心理や、反応を踏まえて作られるこの類の案件は、その意図を把握した上で翻訳されることになります。
音の響き、言葉の持つイメージ、語呂に気を配るなど、人の感性を意識することを求められる案件。
ここはやはり、ベテラン翻訳者の出番となるわけですね。
④ 終わりに
いかがでしたでしょうか?
機械翻訳が役に立ちそうなもの、まだまだ人手翻訳に頼りたいものなど、一部をご紹介しました。
日頃から自社で翻訳したり、翻訳会社に発注したりと、
翻訳に関わっている方は、日々の翻訳案件を思い出し、あれこれ想像されたかもしれません。
今回、機械翻訳の向き不向きについて書いてみて、改めて一つ気が付いたことがあります。
機械の技術の高さ?
スピードや正確さでしょうか?
いいえ、人間の凄さです。
改めて,人間の理解力、表現力はとても高度なものだということを実感しました。
そして、何より感情を持ち、人の感情を理解することが出来ます。
人間と機械の違い。
上記で触れましたが、これがある種の案件が人手翻訳でしか対応できない根本的な理由なのです。
そしてやはり、それらを駆使して翻訳しているプロの翻訳者さんは本当に凄いんだなあ、と。
もちろん、機械翻訳の進化した技術を受け止めずにはいられません。
これからの人手翻訳に対する課題も見えてきています。
私たちにとっては、「伝える」ではなく「伝わる」の大切さと難しさを、改めて考えるきっかけとなりました。
お疲れ様でした。
さあ、そろそろまとめです。
機械翻訳を活用にあたっては、まずは機械翻訳の向き不向きを理解することが大切です。
そして、活用できる技術は有効に活用しながらも、案件に合った適切な翻訳をしていきたいものですね。
日本翻訳センターは
設立60周年を迎えた今、ようやく機械翻訳の活用を検討しはじめたところです。
機械翻訳を活用しても、しなくても、私たちが作りたいものはひとつ。
それは読み手に「伝わる」翻訳です。
そして、お客様に価値を感じていただける翻訳サービスをこれからも考えていきたいと思っています。
(参考:日本翻訳センター設立60周年に寄せて )
最後までお読みくださりありがとうございました。
それでは、引き続き楽しい夏をお過ごしください。
おわり
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