【Lost in Translationシリーズ】
~第一弾~ 「通訳の切腹」
皆さまこんにちは、日本翻訳センター広報担当Mです。
先日散歩中にいが栗を見つけました。
栗おいしいですよね、栗ごはんが食べたくなりました!
さてさて、本日はLost in Translationシリーズから第一弾です!
今回は訳者のYJCさまからのエピソードを。
(少々おだやかでない?タイトルですが、どうぞご心配なく)
以下より早速紹介いたします、どうぞ!
↓ ↓ ↓
YJCさま
日本語・フランス語・英語の通訳・翻訳担当。(6ヶ国語対応可能!)
台湾生まれのベトナム+香港育ち、フランス国籍。
フランスではフランス外務省入り外交官に。
現在は日本在住。
「通訳の切腹」
長い政治外交関係の通訳人生の中で、私は様々な経験をしてきましたが、
その中でもこんなおかしな場面がありました。
本業は在日フランス大使館広報官でしたが、
その仕事を差し置いてしていた通訳業務は、報酬を一切貰わないタダ働きだったためか、
結果の良し悪しに関わらず、大体は事後当事者から感謝されていました。
一度だけ、その感謝が特別な意味を帯びた経験があります。
緊迫した外交交渉の通訳の場において、
相手の言葉を忠実に通訳したにもかかわらず
事情により、あたかも通訳者が誤った通訳をしたかのようにされてしまったのです。
しかし、そのことが決裂寸前の交渉を救い、
最終的には話が円滑にまとまることに繋がりました。
誤った通訳をしたとされたのにもかかわらず、
私が交渉の双方から大いに感謝されるという奇妙なハプニングでした。
守秘義務があるので詳しくは述べられませんが、
1980年代のある日
東京某所の会議室でフランス公使を団長とするフランス代表団と日本の各省庁からなる代表団が
緊張した面持ちで向き合っていました。
私一人が通訳する中、交渉はかなり緊迫した空気の中で行われ、
双方の意見と主張がどうしても噛み合わないまま、既に2時間が過ぎていました。
通訳を経験した人なら分かると思いますが、
会議をたった一人で「健全に」通訳できる限界は大体1時間ほど。
ましてやあの時は休みなしの2時間だったため、
交渉当事者の疲労もさることながら、通訳の私はノックアウト寸前でした。
その時、交渉が中々進展しないことに苛立ったフランス側の団長は、
百戦錬磨の外交官にしては珍しく口を滑らせ、
日本側をなじる感情的な一言を発してしまいました。
これはマズイな〜と感じつつも、
通訳の私はもちろんその感情的な一言も忠実に訳しました。
通訳は当事者が発した言葉の良し悪しを勝手に判断して訳すか訳さないかの決定をしてはいけない!
これが私の『通訳信念』です。
「マズイ」と内心思っても、それは話者の責任であり、
その話者が何か計算があって発した言葉かもしれないからです。
通訳において自分の考えや主張に基づいて話者の言葉に異議申立てをしてしまうような通訳は
私の「プロ」としての意識の中では考えられません。
ここで殊更強調するのは、そのようなプロ意識に欠けた通訳をしている場面に幾度となく遭遇したことがあったためです。
案の定、私の訳を聞いて日本側は激怒し、
交渉はもはや絶望的、決裂に向かっていきました。
無論私は、日仏双方の、この大事な交渉をなんとかまとめたいという強い気持ちを感じ取っていました。
しかし、この感情的な一言で感情を害してしまった双方ともに面子があり、
このままでは互いに一歩も譲れない状況でした。
その時、苦しまぎれにフランス側の団長はこう言いました。
「実は先程皆さんが聞いたあの一言、私はあのような言葉を言っていません。
あれは通訳が間違えたものです。私が言いたかったのは…」
通訳が間違えたなんて真っ赤な嘘だと誰もが分かっていましたが、
私は顔色ひとつ変えずに、「通訳のミスでした」とのそのままの言葉を忠実に日本語に訳しました。
(なぜ日本語で伝えているのにフランス側の団長が間違えたことがわかるのか…(笑))
それを聞いて、日本側代表団の一同は大爆笑、
つられてフランス側も、バツが悪そうではあるが大笑い。
双方とも、交渉を救おうとしてこの通訳が無表情のまま「切腹」したのが分かったからです。
笑いの渦の中、険悪な雰囲気が消え、
双方はすっかり打ち解けて、交渉は再び前進してていきました。
そして、ようやく会議が終わった後、
珍しいことですが、日仏双方の代表らは揃って通訳の私に握手を求めてきました。
大局のために自分を「犠牲」にしてくれたことに、熱く感謝してくれたのです。
これが私の「通訳の切腹」とも言える経験です。
↑ ↑ ↑
今回のエピソード「通訳の切腹」はいかがでしたしょうか。
難しい局面を多く切り抜けられてきた方でも、これにはグサッときそうです。
最終的にうまくいって本当によかったですし、長年の経験が垣間見えるエピソードでしたね。
このようなかたちで、様々なエピソードを紹介していきますので、
次回のLost in Translationも楽しみにお待ちくださいませ。
おわり
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