【 Lost in Translationシリーズ 】
~第2弾!~「セリフの翻訳」
皆さまこんにちは、
日本翻訳センター広報担当Mです。
今回はLost in Translationシリーズより第2弾をお送りいたします。
前回の第1弾から
早いものでまるまる1年が経過してしまいました。
この「Lost in Translationシリーズ」は
JTCが日頃お世話になっている翻訳者・通訳者の皆さまから
翻訳や通訳にまつわるお話や異文化間での経験を教えていただきましょう!
という趣旨で進めている企画になります。
今回は訳者のDFさまからのエピソード、
「セリフの翻訳」をお送りいたします。
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Dさま
日本語・英語の翻訳担当。
アメリカ出身で現在は日本の温泉地に在住。
海から日の出や夜空の月・星が見えることは最高!とのこと。
趣味はキャンプ・ハイキング等のアウトドアアクティビティ。
Lost in Translationシリーズ 第2弾
「セリフの翻訳」
「お疲れ様です」
「よろしくお願いします」
「いただきます」
日本語から英語へ翻訳をする際
これらのような「どうしても自然な英語にならない表現」に遭遇することがあります。
代表的な例としては「お疲れ様です」。
直訳のYou are (or look) tiredは絶対に使えません。
英訳する際、そのシチュエーション、人間関係や立場等を考えて、
また「自分だったらこの場合に何を言うだろう」という事も考えなければなりません。
その結果、Hello、Good-bye、See you、Thank you、That’s toughなどの選択肢が出てきます。
上記のような定例でよくある表現の場合、
経験のある翻訳者なら慣れていることもあり
すぐに当てはまる表現が思い浮かぶので、困ることはありません。
一方、会話(セリフ)を英訳する際、
そのような日本語独特の表現でなくても、
一見簡単そうに見えて、実はとても難しいケースがあります。
以下、実際に遭遇した会話(セリフ)の例を3つご紹介します。
例1
シーン:
小学生の友達二人AとBは、うどん打ちをしている。
Aの年上のいとこCはただ立っていて、AとBを見ている。
B: うんしょ。 Umph.
A: つかれたぁ。 This is tiring.
B: うどん打ちって力がいるのよね。 Making noodles takes a lot of strength.
A: Cさんも見てないで手伝って~。 (To C) You know, you could help too.
C: いや、ぼくは応援係だから。 Nah, I’m just here to cheer you on.
AとB: もぉ~!! Aw, man!!
「もぉ~!!」はごく普通の表現で、
言語の違いに関係なく、人間ならだれでもその気持ちが分かるでしょう。
しかし、英訳する際、この「もぉ~‼」にぴったりな英語表現がなかなか思い浮かびませんでした。
Oh, for heaven’s sake (まったくもう)、
Oh, come on!かGive me a break! (いいかげんにして)
または
You’re awful! (ひどい)も考えましたが、
AとBの年齢(子供)とC(いとこで年上)との年の差等を考えたら、あてはまらないと思いました。
悩みに悩んだ結果、Aw, man!!(まったく)としましたが、
後で翻訳者の友達とこの話をしたら、「やや古い表現ではないか」と言われました。
確かにそうです。
私の子供の頃(70年代)ではアメリカの若者はよく使った表現ですが、
現在はどうでしょうか。
気になります。
例2
シーン:
日本海のある町。昭和初期。
10歳の少年Aと13歳のお姉さんBが散歩の途中、高校のグラウンドで野球を練習している選手たちを見る。
B: 朝早よから練習するんやなぁ。 They begin practice so early in the morning.
A: うわぁ、かっこえぇ! They’re amazing!
格好いい。
それは毎日聞く表現ですね。
最初は、現在なら最も一般的な英語表現の“They’re really cool!” などにしようと思いました。
しかし考えてみたら、アメリカでcoolという俗語が広がったのは1950年代からなので、
戦前の少年はこのようには言わないのではないかと気になりました。
だったら、1930代のアメリカ人少年は何と言うでしょう。
They’re something, aren’t they?(大したもんですね。)
または
They’re marvelous!(素晴らしい)など、
または
I want to be like them!(僕も大きくなったら同じような選手になりたい)も考えましたが、
どれもピンときません。
結局They’re amazing!(素晴らしい)にしましたが、
今もその選択が正しかったのか、疑問に思っています。
例3
シーン:
4人(男性2人・女性2人)が居酒屋で飲んでいます。
その中の3人は旧友で、久しぶりに再会し、楽しくてふざけあっています。
Aはプロのサッカー選手を目指していて、新しい彼女を連れてみんなに紹介しました。
旧友の男性Bと女性Cは結婚したばかり。
C: そうなるの楽しみにしてるわ。 I’m looking forward to that day.
B: 大物になって、彼女を守ってやらないとな。 Big star. Yeah, right. You should be paying more attention to caring for your new girl!
A: お前に言われたくない! You know, I could say the same thing to you!
みんな笑う。 Everyone laughs.
ま、これは、AはBに「お前こそ新しい奥さん(Cさん)を守りなよ」と言っています。
それに、友人同士での楽しいやり取りです。
最初は直訳のI don’t want to hear that from you
または
I don’t want you saying that to meのような英訳にしようと思いましたが、
これは少々攻めているような言い方なので、その「楽しい」雰囲気があまり伝わらない。
その「きつい」雰囲気を避けるため、
結局こちらのI could say the same thing to you (お前にも同じ事を言いえるよ)にしました。
文字だけでその「愉快さ」は伝えにくいですが、その上の選択肢より良いと思います。
以上のように、
多くの場合、自然な英語をつくるため直訳は避けます。
シチュエーション等を考慮に入れて、
あぁでもないこうでもない、と時にはコピーライターになった気分です。
ぴったりした表現を考え出すのは大変ですが、
これが「翻訳」という仕事の楽しさ、醍醐味と感じています。
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今回のエピソード「セリフの翻訳」はいかがでしたか。
シチュエーションのみでなく、
年代や流行り言葉まで考慮に入れて翻訳するのですね。
言葉は「生き物」と聞きます。
それゆえ、変わっていく言葉の使い方、新しく生まれる表現等、
このあたりとの関係は切っても切れないのでしょうか。
今の言葉についていくのも大変なのに、
それを翻訳にも活かす、脱帽です。
このようなかたちで、今後も様々なエピソードを紹介していきます!
次回のLost in Translationも楽しみにお待ちくださいませ。
おわり
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